音楽不況にあらず
かつて渋谷を「音楽の街」「文化発信の街」にした主役たちが、軒並み姿を消した。
それでは、日本のポピュラー音楽は「衰退」したのだろうか。
答えはノーだ。むしろ反対に、日本のポピュラー音楽は、音楽も演奏空間も人材も、より多様で豊かになった。取材してそう確信した。(烏賀陽弘道『「Jポップ」は死んだ』プロローグより引用)
烏賀陽弘道著『「Jポップ」は死んだ』(扶桑社新書)という本をを読んだ。
かつて、CDは売れた。
めちゃくちゃ売れた。
それが今では売れなくなった。
CDが売れなくなった代わりに、フェスに代表されるライヴやコンサートなどに人はお金を使うようになった。
また、人と音楽との関わり方も多様化した。
インターネットの普及と技術の進歩が、その流れを後押しした。
おおむね上記のようなことが、様々な事例を交えながら語られていた。
本書の第四章のタイトルは「CDは不況だが音楽不況にあらず」というものであり、この言葉に、本書の基本スタンスが現れている。
そう、音楽不況にあらず。
いや、「不況」が経済用語であることを考えるならば、厳密にはやはり不況なのかもしれない。
けれど、だからと言ってポピュラー音楽という文化が衰退しているわけではない。
多様で豊かになり、むしろ熱い分野なのだと、本書を読んで改めて思った。
インターネットは、音楽を取り巻く環境を変えた。
音楽と社会との関わり方を変えた。
メディアとしての音楽の在り方を変えた。
そして今また、感染症の煽りを受けて音楽を取り巻く環境が変わろうとしている。
目の前に広がるのは決して平坦な道のりではない。
それでも、と思う。
ポピュラー音楽を取り巻く環境は、変化に富んで、多様で、そしてなにより大いなる可能性を秘めているのだ、と。
それは、音楽の現場にいて肌で感じる実感でもある。
変化は激しい。
常にアンテナを貼って、目を光らせている必要がある。