音楽の正しい聴き方?ホンモノの音楽?ー ベートーベンをぶっとばせ ー
渡辺裕著『聴衆の誕生』(中公文庫)を読み終えた。
19世紀に起こった、「近代的聴取の成立」。
バッハ、モーツァルト、ベートーベン。
クラシックに代表される、「集中的聴取」という思想。
それは、音楽作品を、その構造や作品の裏に隠された「精神性」までをも含め、統一的に理解すること。
それが「音楽の正しい聴き方」であって、それ以外の聴き方は邪道とされる。
そこでは、この集中的聴取に耐えうる巨匠の芸術作品こそが「ホンモノの音楽」であって、それ以外の娯楽的な音楽などは偽物の、取るに足らない音楽とされる。
ベートーベンと、「ベートーベンをぶっとばせ(Rol Over Beethoven)」。
高級音楽と低俗音楽。
真面目な音楽と娯楽的な音楽。
そうした考え方は18世紀にはなかったもので、19世紀のヨーロッパ(とそれに影響された文化圏)のみで発生・伝播した、むしろローカルなもの。
そして、20世紀には再びそれらが崩壊していく様が、この本では描かれる。
マーラー、サティ。
偶発的に生じたもの、路上観察学的感性。
「真面目な音楽」では誤りとされてしまうミスが、むしろ「差異」と楽しまれる文化。
ここに至ってはもはや、「集中的聴取」では必要とされていた、「作品」の「表現」を「解釈」する必要すらなく、むしろ「解釈」は拒まれ、全く必要のないものとなる。
こうしたことは、この本の中では伝統的なクラシックとそれ以外の音楽との対比で描かれるが、いわゆる「低俗的」で「娯楽」とされるポピュラー・ミュージックの中でも起こっていることのように、僕には思われる。
ライヴこそ「ホンモノの音楽」?
レコードとデジタル?
高度に練られ作られた音楽と、手軽に作られた音楽?
あるいは、もっと単純にうまい演奏とヘタな演奏?
ひとまず、ここに答えはない。
けれど、妙にリアルで興味深い内容であった。